ゴトウモエさんパート2

若い芽を摘まず、うまく伸ばせるよう努力した

M:Matirog:ゴトウモエさん M20日(土)21日(日)の2日間にわたって、秋田県演劇団体連盟主催の演劇セミナー、若手講師として、白羽の矢が立ったモエさんですが、事前準備も大変だったのではないですか?

役者コースでは、台本がないと何も教えられないのですが、私台本が書けないんですよね。そのため、色々と探して、使用許可をいただかなければいけませんでした。
音響や、SE、BGMは身内でもあるPhiomn Entertainmentの北嶋さんにご協力いただきましたが(笑)

Mタダで使えるものはどんどん使うべきですね!

20日午後と、21日は丸一日の、2日間のセミナーでした。2日目最終日の夕方に発表する場が設けられていて、それに向けて2日間練習するカリキュラムです。
私が講師を務めた役者コースには、16、17歳の高校生が6名で、高校に入学してから部活で始めた子もいれば、まだ演劇はじめて3か月ほどの子も。また、学校に演劇部はないけれど、色々参加して勉強している子もいました。

Mみんな高校生だったんですね。経験値は様々であれ、自分の意志で参加したやる気溢れる青年たちだったのでしょう!

そうなんです。
セミナー開始時に、やるんだったらやらされるのではなく、何かを奪うつもりで挑んできてください。と伝えましたが、みんなそれに応えてくれて嬉しかったですね。

Mまた、ガツンと言いましたね。
モエさんご自身も、舞台を中心に学んでいた声優の養成所時代、周囲の学生と慣れ合うことなくアグレッシブに学ばれてましたよね。

確かにギラギラしていました。周りからも怖い人だと思われていました…。

Mそれぞれのゴールに向けてスキルを身につけることが目的ですから。
お友達作りが目的ではないので、そのくらいの意気込みは大切だと思います!

もちろん、周囲との適度な距離感は大事にしていましたよ。
セミナー開始時にある程度心意気として強めに伝えましたが、やはり目的は若い世代に演劇を続けてもらうことですので、若い芽を摘まず、うまく伸ばせるよう努力しました。
演劇って楽しいんだな。と感じてもらうための講師として呼ばれたわけですしね。

M秋田県は今まさに少子高齢化率が日本一ですから、演劇人口を減らさないためにも、演劇に興味をもった青年を大事にしていかないといけませんよね。

都会に出ていく若い世代も多い中、秋田県でも、私のように本気で演劇活動をしている大人が存在すること、秋田県に残っても楽しく演劇を続けられることも伝えたかったです。

M秋田県が抱える人口減少問題にも、演劇を通して貢献されたんですね。

演劇とは、今までの人生経験がにじみ出るもの

M:Matirog:ゴトウモエさん M今回モエさんは役者コースの講師をされた際に、学生の皆さんに参加型のワークショップを提案しましたが、どのような脚本を選ばれたんですか?

殺人事件が起き、それを解決していく10分くらいのサスペンスを選びました。ただし、内容が重すぎると深刻になりますので、やっていて楽しくなるようなコメディの要素も含んでいます。
1日半のセミナーため時間に限りがあります。早速みんなに台本を読んでもらい、私でキャスティングし、立ち稽古に進みます。

Mキャスティングの際に、役にあったキャラクターを見極める必要があると思いますが、どのようにして判断されたんですか?

高校生同士はじめましての子もいるので、気持ちをほぐすためにも、まずはシアターゲームを行いました。これはお芝居をする上の力を磨くためのウォーミングアップです。

Mシアターゲームですか。具体的にどのようなことをするんですか?

いきなりお題を与えて、メンバー同士相談せずに体を使って表現してもらうゲームです。
今回出したお題は「飛行機」でした。6人はそれぞれが思い描く飛行機を、互いに相談せずに表現します。
翼になる子もいれば、パイロットになる子もいるため、それぞれの個性が見えるゲームです。
また全員で飛行機を作ってもらった際には、翼部分や中心の本体を選ぶ子がいて、なんとなく性格も現れます。

Mモエさんのキャスティングに生徒たちは納得しましたか?

そうですね。キャスティングは勘で決めることも多いですが、声質や、目を見て話すのか、大人と話すときの態度なども参考になります。また、このシアターゲームを通して、前に出たい子や少し脇で面白いことをやりたい子、なかなか自分の殻を破れない子など、性格も分かります。

M今まで経験した内容で、同じ飛行機でも表現の仕方が投影されるのは面白いですね!
もし飛行機の存在を知らなければ、何も表現できないしょうし。
演劇とは、今までの人生経験がにじみ出るものなんですね。

初日はキャスティングを決めて、翌日夕方の発表のために「与えられた役について考えること」、「イメージした衣装があれば持ってくること」を宿題にしました。

M発表が楽しみですね!

演技に対する自分の気持ちと心構えは誤魔化せない

M:Matirog:ゴトウモエさん M高校生6人のサスペンスコメディ、発表当日はどのような流れで進めましたか?

前日与えた宿題の答え合わせをしました。与えられた役にそれぞれ個性が加わるので、正しい答えはありませんが、与えられた役はどういう人柄なのかをそれぞれ発表してもらいます。そして、セリフに込められている心情も考えてもらいます。気持ちの作り方を教えながら、思いを持ってセリフを読むことで、どんどん役は立体的になっていきます。そうすることで、見ている側にも感情が伝わりますよね。

M意外に感じたのは、発声方法だとか、目の開き方、間の持ち方といった、テクニカルな部分を教えるわけではないんですね。
どちらかと言うと、モエさんのワークショップでは、相手がどう思うかという想像力を養う国語力を重視されている印象です。

発声や活舌、ストレッチは演劇をするにあたって、基礎としてとても重要ですがそれは演劇を続けたい意思のある人にとっては当然のことだと私は考えます。
特に今回のセミナーは1日半の限られた時間だったので、基礎の重要性は分かってもらったうえで参加してもらいました。講師として教える内容は、それぞれ演技論を持つ講師によって異なりますので、基礎をきちんと教えている講師の方もいましたよ。
私がテレビに出たり声優をするときには、マイクが音を拾うので大きな声は出しません。また、映像であればメイクさんがキレイにしてくれますし、写真であればフォトショップで加工もできますので、環境に合わせて使い分けられたらいいと考えます。
誤魔化せないものは演技に対する自分の気持ちと心構えです。その部分は自身で鍛錬すべきだと思っていますので、基礎を教えることに時間を割くことよりも、役として相手とどう関わるのかに重きを置きました。

Mいつもより随分小さい声でお話いただいてますが、自宅スタジオのいいマイクでちゃんと音は拾えていますもんね。思いは十分伝わってきます。

私のワークショップでは、怪我しない程度に体を温めるためのストレッチや、発声のみの最低限にしておいて、まずは相手の役とどう関わるか、役作りの方法のお話をさせていただきました。

Mロシアの演劇人スタニスラフスキーの演技論、またハリウッドにある演技学校などでは、目の演技を教えるようですが、モエさんの演技論とはなんでしょう。

活舌や発声がなっていなくても、伝わることはあります。一方、あまりにも綺麗に話されると、かえって感情が伝わらないこともありますよね。
私は、感情は作るものではなく、自然と生まれてくるべきものと思っています。

M演劇の中で自然に感情を生み出すには、役である相手を把握し、理解し、適応する力が必要ですよね。

もちろんそれもありますが、単調に「好きです」を言うのではなく、強い気持ちを込めた方が相手にも伝わりますからね。何も考えずに「好きです」を言ってしまっては何も伝わりません。その人の気持ちをよく考えることが大切です。

M僕も番組で台本通り言わなくてはいけないことがあります。台本で「美味しい」とあっても、それが本当に美味しいとは限らないんですよね。
台本を読んで「美味しい」を言う時は、本当の気持ちではなかなか言えないので、実際食べるのはチャーハンでも、大好物はあんかけ中華焼きそばなので、それを食べている自分を思い描いて「美味しい!」と言ってます。出てくる言葉は嘘じゃないけれど、構図としては嘘になりますよね。

ラジオやテレビではある程度誤魔化せる部分もありますが、実際は本当の気持ちじゃないと見ている人に伝わらないし、冷めちゃうんです。役者が演じる世界はしょせん嘘なんですけどね。

Mテレビドラマを見ていて、予め虚構だと分かっていても「コウノドリ」ではたくさんの人が感動し、涙しましたよね。ドラマなので真実ではないと分かっているにも関わらず、リアルな世界よりも、よりリアルに感じてしまう要素はどこにあるんでしょう。
創られたものの中に、創られていないもの以上の真実味がある一方で、日常のように創られていないものが嘘っぽくあったりします。
僕が「人生を娯楽にする」というコンセプトを説明するにあたって、本当と嘘が存在する演劇の世界で表現するのが一番わかりやすなと感じました。

ゴトウモエの演劇人としての出発点

M:Matirog:ゴトウモエさん M演劇をしている人は、何が楽しくて続けているんでしょうか。
特に秋田県ではアマチュアの方が多く、普段は別のお仕事をされているはずですよね。忙しい日常で休日を削ってまで続ける魅力や価値ってどこにあるんでしょう。

人によりますが、ただただ演じるのが楽しい人、見てくれる人の存在や、拍手称賛が気持ちよくて続けている人などでしょうか。私も出発点は後者でした。
今現在のゴトウモエとして言うならば、楽しいというよりも、見てくれた人の気持ちに寄り添えているように感じることが、続けられる要因です。
見てくれる方の中には、誰にも言っていなかった傷口や思い出に自分を重ねて、涙してまた頑張ろう!と思う方もいます。そういう方の傷口に私が役を通して寄り添うことで、見てくれた人の救いになれたらと感じます。
かつて私自身も芝居を見て救われたことがあるように、見てくれた人の記憶の中に残すことができたらいいなと。その連鎖が起きると嬉しいですね。

M演劇は、現実ではなくきちんと構成されたストーリーですよね。
実際に現実の生活で起こってしまったら強烈すぎて耐えられない内容でも、演劇というフィルターを通して客観視すると、緩和されて安心して見てられます。
この特徴を生かして、最近ではセラピーでも療法として演劇が取り上げられてると聞きます。
また、劇作家、演出家の平田オリザさんと舞台評論家の山川三太さんは、企業の中での人との接し方を、演劇の要素を取り上げて紹介しています。
演劇は、演じる側も見ている側も、現実と非現実を分けて考えられるので、短時間で人生を変えたり、傷口を癒す効果、価値観を大きく変える可能性を秘めていますよね。
セラピーのような医療業界や、企業においてビジネスチャンスの可能性は非常に高いと感じます。

次回は、これからの演劇における社会での可能性をお話しようと思います。

そして、昨今のローカルメディアにおける、タレントの能力についてもせまってみます!
また、秋田県のエンタメ業界とどのように手を取り合っていくと可能性を見出せるか?を議論しましょう。