ゴトウモエさんパート3

若い世代の伸びしろを目の当たりにした
M:Matirogモ:ゴトウモエさん
M2018年1月20日(土)、21日(日)の二日間、秋田県演劇団体連盟主催の演劇セミナーに講師としてワークショップを担当されたモエさんですが、モエさん自身感じたこと、また参加者からいただいた感想などをお聞かせください。
モまずは、若い参加者だけではなく、講師としてついていた大先輩の関係者の方々も含め、長年坂本先生のように、ずっと演劇に携わっている元気なおじいちゃんおばあちゃんもいらして、秋田県にも演劇に携わっている人がこんなにも多くいるんだな、というのが第一印象です。
2011年に秋田県に帰ってきてからは、客演として劇団ウィルパワーさんの舞台に参加したこともありますが、基本的にずっと一人で演劇活動をしてきました。そのため、劇団の公演を見に行っても、どなたとも話すことがなかったんですね。今回講師として参加した際に、ようやく秋田県の演劇人の中に加えてもらったんだな、という実感が湧きました。
面白かったのは、私の叔父も昔高校演劇をしていたんですが、その叔父がいた高校に演劇を教えてに来ていた方が、今回のセミナーの参加者の中にいて驚きました。長く続けているとこうやってまた巡り合うことができるんですね。
そして、なによりも参加者の高校生たちのやる気が伝わってきたことが、すごく嬉しかったです。私のコースに参加してくれた高校生6人には、コース前に「ただ与えられるんじゃなく、奪いに来るつもりで!」とカツを入れたのもありますが、みんなとても前のめりに頑張ってくれました。それもあって、稽古を重ねるたびにみるみる成長していく様子が伺えました。本番が一番よかったんです!久しぶりに、若い世代の伸びしろを目の当たりにしました。
バイトして生活費稼がなきゃとか、明日何時までにこれを完成させなければ…のような、物事に追われる日常ではなく、ご両親や学校に守られた環境でただひたすらに演劇だけに打ち込めるのは、高校生や10代ならではの強みであり、輝きや勢いが伝わってきますね。私自身も10代のころはそうだったのだと再認識して、初心に返ることができました。今回の関係者の中でも、「モエさんと話したかったんです!」「LINE交換してください!」という優しい方々にも巡り合えて、これからも秋田県で演劇を続けていこう!という刺激にもなりました。
また、関係者として一緒にやれたことを喜んでくれる人がいたことが、今回の私の財産です。
M開催日の二日間、準備期間も含めてイキイキされてましたもんね。終わった後も水を得た魚のようでしたよ。
モ劇場も稽古や台本を読むことも、やっぱり好きなんだなぁと感じました。

オリンピック選手も参加した、演劇ワークショップ「モエ塾」
M:Matirogモ:ゴトウモエさん
M久しぶりの演劇のお仕事だったんですよね?どうですか、剣はサビていませんでしたか?
モはい、妊娠出産のため2年半ほど演劇に携わっていませんでした。最初はすごく緊張しましたが、大丈夫でした!
息子を持つ前の演劇人としての私は、相手が高校生でも同志のような感覚でしたが、親の立場になった今高校生と接すると、息子もいつか台本を読んだりセミナーに参加するのかな。とか、休憩中にお母さんの手作り弁当を美味しそうに食べたりするんだな。と、親心がとても湧いてきて、未来の息子を想像して高校生を見てしまいますね。(笑)
かつての私は、高校生には「とにかくやってみなよ!」と背中を押していましたが、親となった今では、ただ闇雲に背中を押すのではなく、具体的なアドバイスも添えられるようになりました。新たな自分と変化を発見できました。
M親になったことで、視野が広がり相手にかける言葉の深みも増したんでしょうね。それが参加者にも伝わって大成功を収めたのだと思いますよ。
そのあと、打ち上げなどもあったんですか?
モ初日に大人だけの懇親会があり、二日目最終日には高校生たちとの懇親会がありました。
M関係者や参加者の大人たちの感想と、高校生たちの感想を聞かせてください!
モ秋田県出身の講師を集め、高校生をメインにしたセミナーは、今回初めてだったようです。関係者たちはその化学変化が楽しいと感じたようで、自分自身も参加したい!とおっしゃってました。また、若手と先輩方の接触では、今後の演劇に関する議論でも話でも盛り上がっていました。
参加者の高校生たちは、7対3くらいの割合で女子が多かったのですが、ワークショップが終わって緊張の糸が切れたのか、とにかく元気いっぱいでしたね。普段、大会などで別の高校生の芝居を見ることはあっても、今回のように一緒に作り上げて互いの芝居を見ることはなかなか少ないので、新鮮だと言ってました。「俳優になりたい」「声優になりたい」の相談も受けて、親心でアドバイスさせていただきましたが、みんなやはり演劇が楽しいと行ってくれたいたことが一番印象的です。
Mモエさんは高校生のころ演劇部以外でも活動していたんですよね?
モ高校生の時には、部活と、秋田市の老舗の劇団シアタールフォコンブルが講師として開催していたヤング講座で活動したりと、外部でも色々活動していました。
Mその頃の自分を思い出したんじゃないですか?
モ思い出しましたが、私ほどギラギラした高校生はいませんでした。(笑) 当時の私は、「大人の鼻なんてへし折ってやれ!」「大人の言うことは聞いても、それ以上のものを見せてやるよ!」と思っていましたから。私は大人に対してアグレッシブなタイプでしたね。
M時代も変わりましたし、その当時のモエさんのギラギラは大切なスピリットではありますが、今そのギラギラさは今通用するかは別問題かもしれませんね。
ところで、演劇のワークショップはモエさんにとって初めてではないですよね?
モはい、出産前に秋田県のモデルクラブ、ステラの代表である原田氏のバックアップで「モエ塾」を2回開催しました。
Mその時の参加者はどのような方たちだったんですか?
モシンガーやモデル、ダンサー、演劇をやっている中高校生、バーテンダーや、モエ塾を開催した会場に務めている方々、そしてスケルトンのオリンピック選手、笹原友希(ささはら ゆうき)さんでした。
Mオリンピック選手!ボブスレーの頭から滑るのがスケルトンですよね。それぞれ理由があって参加されたと思いますが、オリンピック選手の笹原さんはどういった理由で参加されたんですか?
モ当時テレビやラジオに出演していた時に笹原さんと知り合いました。笹原さんには「インタビューされた時に、ちゃんと伝えるようになりたい。スポンサーにしっかり思いを伝えられる話し方をしたい。」という明確な理由があって参加されました。
Mアスリートは、ファンへの感謝の気持ちや、ターゲットを絞ってしっかりと思いを伝えることは大切ですよね。演劇は、色々なシーン、職業やビジネスにも役立つので、非常に可能性を秘めていますね。
モ「モエ塾」では、職業年齢問わずどなたでも参加可能にしました。お芝居をやっているだけではなく、表現することに携わっている人たちが、さらに表現活動を豊かにするための内容で開催しました。
M演劇とは「カレースパイス」のような感じなのでしょうか。個人的にカレーが好きなので、カレースパイスで例えますが、うどんに入れるとカレーうどん、カレーにかけると辛味UP、おにぎりにかけるとカレー風味になるように、演劇もそれぞれの魅力がバージョンアップされるもののように感じます。
モそうですね。表現力を鍛える演劇の要素を身につけることで、日常や仕事が楽しくなると思います。

伝わらなければ意味がない
M:Matirogモ:ゴトウモエさん
M表現力を身につけることは、つまり伝えるスキルですよね。
モはい、相手に伝わらなければ思っていないのと同じです。
M名言ですね!相手の気持ちをおもんばかる「忖度(そんたく)」という言葉が流行りましたが、これは日本特有の文化ですよね。「言わなくても分かるよね?」を美しいと感じる国民は、日本だけでの話で極めて特殊な文化だと思うんです。世界には色んな価値観をもつ人が混在していて、その社会の中ではこの「忖度」は全く通用しません。思っていることをきちんと表現し、それを正確に相手に伝える、少なくとも全力で相手に伝わるように努力することはとても大切だと思います。思いを伝える時には、言葉だけではなく、ジェスチャーや声のトーン、眼力、熱量なども大事ですね。
モそれは夫婦生活でも同じですね!「何も言わなくても、うちの奥さんならやってくれるだろうなぁ。」と言うのはあり得ませんよ。
M僕、そのへんはできていませんね・・・。
モ私は演劇に携わっているのもあって、「今こうしてほしい。してくれたら助かる。」、「褒めてほしい。」など極力言葉にしていますね。
M「褒めてほしい。」を言葉にする人は珍しくありませんか?
モそれに関しては、承認欲求を満たしたいがために言っていますね。(笑)
M家庭生活でも伝えるスキルは重要ですが、会社の組織やチームでひとつのプロジェクトを遂行していく場合でも同様に思います。みんなが同じ価値観ではなく、価値観の違う者同士ひとつのゴールに向かうには、重ねる話し合いのもと着地点を見出す必要があります。「口にしなくても分かるでしょ?」の忖度は一切通用しません。目標達成には、曖昧ではなく、はっきりとした個々の意見が必要とされます。
最善策を築き上げる上で必要なのが、「言葉を超えた表現手段」なのかなと思います。言葉だけで意思疎通を図ろうとすると、誤解を招くことってありますよね。例えば、「すみません。」は謝罪の場合と、感謝を伝える場合の両方で使います。受け手にとっては、誤ったのか、ありがとうなのかはっきり伝わりません。ここでボディーランゲージを加えて笑顔で「すみませーーーん♪♪」であれば、それが感謝であると伝わりますよね。言葉だけの単調な「すみません」だと相手には伝わらないんじゃないかなと。
別の例として、「とりあえず」では、「第一に」ととらえる人もいれば、「間に合わせで」ととらえる人もいます。このように、僕は言語には限界があるのかなと感じます。
モ漫画やアニメの実写で批判が増えてくるのは、見た人が抱いているキャラクターのイメージ像がそれぞれ異なるからなんだと思います。特に漫画が具現化されたとき、各々心の中で決まっていたキャラクターがあったのに、見た時に全く異なってしまうと、当然大きなズレを感じますよね。みんなが納得する物を作り上げるために意識の統合は必要ですが、実際にはとても難しいです。
M僕が哲学者だと思っているお釈迦様のゴータマ・シッダールタという人物がいます。一つの限られた地域でしか使われていないパーリ語で経典を残していかなければならず、その言葉でなければ伝わらないニュアンスがあるようです。そのため、翻訳されてしまうと正確に伝わらないのだそうです。声の響きやトーン、抑揚を伴って意識や精神を伝えているんだと思います。文字にしてしまうことで、少しのズレがどんどん大きなズレになる恐れがあるため、翻訳することを認めていないそうですよ。
僕は文字にしない方がいいものがあることに共感します。スピリットのように明確に分別できない抽象的な概念を伝えるために、「演劇」はそれを表現する一つの手段としてとても役に立つ技術だと感じます。(諸説あります)
モ色々なツールが発達しようとも、結局向き合うのは生身の人間で、人対人ですから、伝わらないと意味はないですね。
M僕は演劇はを一つの表現のスキル「演劇術」だと思っています。この「演劇術」を社会に広めてより多くの人たちが日常で生かしていけたら、もう少し生きやすい社会になると感じます。自由度も増すような気がして。
「liberal arts(リベラルアーツ)」という言葉がありますよね。日本語では一般的に“教養教育”と訳されますが、皆さんがイメージするような学問を身につけるための教育ではなく、良い意味で束縛から解放するための知識や、⽣きるための⼒を⾝につけるための技法をのことです。余談ですが、「art」は“芸術”の意味の他に、“技法”があります。人の手を加えたものや、作り出されたものを意味するので、artificial intelligence (AI)は,「人工知能」と呼ばれます。「Art is long, Life is short」“芸術は長し、人生は短し”のことわざがありますが、本来はその昔職人が多かった時代、技術や技法を身につけるには人生は短すぎるという意味なんです。
「演劇」も単なる知識としてではなく一つの技術として、自由に生きるための「リベラルアーツ」と捉えることができるんじゃないかなと感じます。「演劇」を技術として取り入れて知恵を身につければ、生き方を支える大きな力になり得ると思います。
M役者の演技を見ていて、上手い下手の決定的な違いが分かりました。
モそれは何ですか?!
M誰に向けて言葉を発しているのか分かる人、すなわち伝えたい相手をイメージして話している人がうまい人だと気づきました。テレビカメラだと、レンズ越しの誰かをイメージして話している人ですね。明確な違いに気づきましたが、モエさんはどう思われますか?
モ好感度は、活舌が悪かったり声が出ていなくてもあまり関係ありませんね。伝えたい相手に伝えたいことが正確に伝わっているかが重要です。
私が開催した「モエ塾」では、自分の発言や声を一体誰に届けたいのかを教えました。
M具体的にどのような内容ですか?
モ6人のメンバーを3人ずつに分けて、部屋の壁側に3人、窓側に3人広い間隔を取って並んでもらいます。窓側の3人には窓の外を見てもらい、壁側の人は窓側の3人の背中を見るような配置です。そして、壁側の人は、背中を向けて立っている窓際の3人のうち一人を決めて、背中に向けて「おーい」とだけ呼びかけてもらいます。窓際の人が、自分が呼ばれていると感じたら返事をしてもらうゲームです。
面白いですよ。ぼんやりと「おーい」と呼びかけても窓際の3人には自分が呼ばれているのかは当然気づきません。しかし、「しっかりと自分が呼びたい人に向けて気持ちを込めて呼びかけてください。」と指示すると、不思議と窓際の人にはそれが伝わり、自分が呼ばれている!と気づくんです。
M僕も現場にいたので、モエさんの指示後、声をかけている相手に明確に伝わり感動したのを覚えています!単に声をかける人の体の方向が、声をかけたい相手に向いているという理由だけではなかった気がします。
モ受け取りて側も少しずつ神経が研ぎ澄まされていくのもあります。思いを込めて呼ばれると、それがたとえ見えていなくとも、自分の背中にビリビリと感じます。
M視覚以外の要素の、皮膚感覚で相手の声をキャッチしているんですね。
モやってみるとわかるかと思いますが、声は背中で感じることができるんですよ。
居酒屋やファミレスに行くと便利ですよ(笑) この技術を身につけて「すみませーーーん!」と伝えると、100%店員さんを呼べます。