看護師やめて、起業した。パート1
ある日、あなたは母親の胎内に宿り、産まれる。そして成長し、思考する。あなたが今この文章を読んでいるのはあなたひとりの力ではない。きっとあなたに読み書きを教えてくれた誰かがいたからだ。
しかしあなたを育てた人の悩みや苦しみをあなたは知っているだろうか?当事者にならない限り、なかなか分からない子育ての悩みや不安までも価値に変えて秋田で活躍している人がいる。親を持ち、親になり得る全ての人に送るすきかちっ第6弾!
多胎サークル「ひなっこクラブ」との出会い
M:Matirog
山:山田綾子さん
M今回は、看護師の経歴を生かして起業された、山田綾子さんにお話をうかがいます! 看護師を辞めて、起業されたとのことですが?
山はい。現在35歳なのですが、この歳から第二の人生を歩もうと、今年2018年の1月に14年やってきた看護師を辞めて、起業することを決めました。
M一念発起して、看護師を辞められたんですね。これからは女性起業家の時代でもありますが、かなりの覚悟が必要だったのではないでしょうか。すきかちっ第6弾では山田さんの、好きを価値に変える方法をお話ししていただきたいと思います。
ところで、僕のご近所さんでもある山田さんですが、お互いの子供達の最寄りの小学校が同じなんですよね?
山そうなんですよ。うちは双子の小学生の男子がいますので、いずれ入学してくるMatirogさんのお子さんのことを楽しみにお待ちしていますよ。
M双子の男の子ですか?! ランドセルも水筒もお弁当も、何もかも二つ必要ですね。
山そうですね、何もかも二つずつ必要です。
プロフィール:
元看護師。多胎サークルひなっこクラブ代表。秋田食介護研究会秋田市支部あふかの代表。あきた母乳育児をささえる会会員。
双子の男の子を育てる母として育児に奮闘する一方、行政・医療・教育機関・専門家・育児支援団体などと連携をとって、子育てをしている全ての人が幸せになれる道を考え活動。2018年4月に「子育てラボ hateao(はてあお)」を設立した。
M双子のお子さんが小学校へ上がられて、子育てに関して何か変化はありましたか?
山保育園の年長さんのあたりから、ほとんど手がかからなくなって随分楽になりました。双子だからなのか、兄弟喧嘩をしないんですよ。
M双子って言い合わなくても分かりあえると聞いたことがあります。
山特に上の子が、面倒見の良い性格をしています。私が疲れてリビングで寝落ちしてしまうと、風邪をひかないように布団をかけてくれたり。
Mそのエピソードに泣きそうです…。今は手がかからなくなったようですが、双子を出産した当初は大変だったのではないですか?
山出産直後から1年くらいは、忙しすぎてほとんど記憶がありません。気がついたら1歳を過ぎていました。通常は妊娠38週あたりで出産することころを、私は妊娠31週での出産で早産だったんですよ。上の子が1,600グラム、下の子は1,000グラムと低体重児で生まれたため、子どもたちは生まれてすぐ入院しなければなりませんでした。
私自身も出産の2か月前から入院していましたが、予定より早く生まれてしまい、迎え入れる準備も整っていなかったため、出産後も子どもたちが入院している病院と実家とを行ったり来たりで本当に大変でした。子どもたちは3か月ほどで2,500グラムまで成長したため退院しましたが、二人の新生児を前に戸惑いもありました。日々の育児で、月日はあっという間に過ぎていきましたね。
M山田さん自身が双子を出産されているので、多胎児を持つお母さんと話す機会も多いと思いますが、どの多胎児も小さく生まれてくるものなんですか?
山そうですね。小さく生まれてくる傾向があります。でも、しっかり新生児の基本体重で生まれてくる多胎児もいますよ。
M多胎児の出産や子育て経験があるお母さんの絶対数は少ないと思いますが、色々相談したいときはどうされていたんですか?
山コミュニティや友達を求めて、インターネットで調べました。そして、秋田県に一つだけ「多胎サークル ひなっこクラブ」という双子サークルがあることを知りました。
多胎児を持つお母さんたちが場所を借りて、集まって話ができる育児サークルです。
Mひなっこクラブにはどのくらいの人数がいましたか?
山当時30名くらいいましたね。そこに子どもたちを連れて行って、先輩のお母さんたちに話を聞いてもらえたので、とても嬉しくて安心できました。
M子ども一人でも一緒に出かけるのは一苦労なのに、産後、二人のお子さんを連れて出かけるのは相当大変だったのでは?
山そうですね。双子用のベビーカーに乗せて出かけるのですが、持ち運ぶ荷物もすべて二人分で準備も大変ですし、時間もかかってしまいます。双子用のベビーカーはそれだけで10キロもあるんですよ。
Mベビーカーだけで10キロ?! お出かけもそうですが、二人にミルクをあげるだけでも大変ですよね。どうやってあげていたんですか?
山あぐらをかいて、それぞれの足に子供を乗せて両腕であげていました。
M座禅を組んでいる修行僧のようですね(笑) 多胎児を持つお母さんの話を直接色々と聞けるひなっこクラブの存在は心強いですよね。
山そうなんですが、ひなっこクラブに行けたのは、実際二人の子どもを連れて出歩くのが大変だったこともあって、育児休業中の1年間で2回ほどなんです(苦笑)
育児休業中は先輩のお母さんへメールで相談しながら、あっという間に1年が過ぎて、看護師として仕事に復帰しました。
Mお出かけが大変なお母さんにとって、メールで相談できるサービスはありがたいですね。
相談する側から相談される側へ
M:Matirog 山:山田綾子さん
山1年間の育児休業後、仕事に復帰したので、ひなっこクラブには行かなくなってしまいましたが、職業が看護師ということもあり、私が相談される側になりました。以前からSNSで交流のあった友人を通して、双子のお母さん同志の輪が広がりました。また、ブログをしていたこともあり、それを見て連絡をくれる多胎児を持つお母さんも増えていきました。
M山田さん自身が双子の出産と育児を経験されていて、しかも看護師であれば、相談する側も心強いですよね。山田さん自身も、相談されることは嬉しかったのではないですか?
山職業が医療職ということもあり、頼ってくるお母さんたちがいたので、私も看護師という職業柄、何とかしてあげたいという気持ちになり、相談に乗っていました。その頃に、ちょうどひなっこクラブの代表の交代の時期がきて、私が代表をつとめることになりました。
M代表の交代はどういう時期にあるんですか?
山子どもが幼稚園に上がったら、ひなっこクラブを卒業するシステムがあります。子どもが入園すると、子どもの行事でサークルに参加する時間もなかなか取れず、お母さんも大変な時期になるため、幼稚園に上がる前の、0歳から3歳未満のお母さんに代表を交代しています。
Mそこで、山田さんに白羽の矢が立ったんですね。
山昔は、多胎児を持つお母さんは専業主婦であることが多かったですが、時代とともに働くお母さんが増えてきました。そのため育児サークルのために仕事を休むことは困難です。
私も看護師として外来でフルタイムの仕事をしていましたが、日祝日は必ずお休みで、お盆やお正月のような長期の休みも取れるため、私が代表をすることになりました。サークルには2回ほどしか参加していませんでしたので、私でいいのかなと不安はありましたが。
M実際、代表をされていかがでしたか?
山代表一人で物事を決めて行動に移さなければならず、全責任が代表にかかりますので、大変でしたね。
Mスタッフで話し合って多数決ではないんですね。
山もちろん、スタッフもお手伝いはしてくれますが、やはりお手伝いですので、時間が空いたときしか参加はできません。参加できる人とできない人とにばらつきがあって、物事が決められなかった経緯もあり、代表がすべてを決めるシステムとなったようです。
M代表のモチベーションを維持するためにも、代表が決めるシステムになったんですね。
山スタッフは全てお母さんたちの集まりで、ボランティアですので、お給料や交通費なども発生しません。そのため、まずは代表がやりたいことを決めて、みんなで協力します。ボランティアのお母さんたちは、やりがいと生きがいでお手伝いしてくれています。一方で、やりがいや生きがいを感じなくなった瞬間、辞めてしまうこともありますけどね。
子育てについて考える「hateao」
M:Matirog 山:山田綾子さんM山田さんはやりがいを感じているからこそ、代表を続けられたのだと思いますが、他のお母さんたちが辞めてしまわないように、どのような工夫をされたのですか?
山従来いたスタッフに加えて、挑戦してみたい! と申し出てくれた多胎児を持つお母さんたちを新しくスタッフとして招き入れました。そして、苦労した経験を次にどう繋げていきたいかを聞きました。お母さんたちが困っていた時に、助けてほしかったことを、活動内容として取り入れました。
M多胎児のお母さんたちの声をきちんとヒアリングして、今まさに困っているお母さんたちをサポートすることで、喜びが生まれ、スタッフのモチベーションが高まったということですね。
山メンバーに還元する意味も込めて、少しだけ貯まっていたひなっこクラブの貯金を使い、面白いことも始めました。
Mそのころには、経営者として物事を捉えていたんですね。
山実感はありませんでしたが、ひなっこクラブの運営はうまく回るようにはなりましたね。
M最近設立された子育てラボの「hateao」で開かれた、若者会議というイベントでご一緒させていただきましたが、「hateao」は研究室の要素があるんですよね。設立に至った経緯を教えていただけますか?
山ひなっこクラブの経験を生かして、今年2018年の4月に子育てラボ「hateao」を設立しました。“はてあお”の名前の由来は、息子たちを大事にしたいという思いから、息子たちの名前、“はやて”と“あおい”をもじって決めました。双子の息子たちが生まれたことで、ひなっこクラブに出会い、たくさんのお母さんと繋がって、代表になれましたから。
子育てラボは、私自身が研究所となって、色々な人と子育てについて考えてみようという思いから設立することにしました。
M子育てを学問として捉え、子育てとは一体何なのかを考える場所が「hateao」なんですね。
山看護師という医療職だったこともあり、「今泣いている理由は、○○が不快だからだ」といったように、理由を探して見つけることが好きなんです。ですが、子どもが0歳から3歳までの小さい頃は、それも全く分からず、パニックになっていました。
Mうちの子は、まもなく2歳ですが、おっしゃる通り全く分かりません…。何を言っても「イヤイヤ」で。
山一番大変な時期ですね(笑) 大変な時期に、私自身も何もできませんでした。
離乳食を食べなかったため、体重が増えずに悩んでいたころ、食前食後に離乳食の重さを計って、どのくらい食べたのかを計測していたほどです。おなかがいっぱいで食べなかった、食べる気分じゃなかった、スプーンが嫌だったなど、子供達の色々な様子を見て今になって分かったことがたくさんあります。私が学んだことを、ほかのお母さんたちに伝えていきたいし、学んでほしいと思いました。伝えることで、助かるお母さんもいるんじゃないかと。解決策が育児書に載っているのに、その通りにやってみても解決しないことはあります。その部分をサポートしていけたらと思い、ラボにしました。
ネットからは得られない安心感、「大丈夫」の言葉
M:Matirog 山:山田綾子さん
Mインターネットで検索すれば、色々な情報は得られますが、答えが見つからないお母さんお父さんはたくさんいますよね。たとえ答えが見つかったとしても、不安は残ります。
山そうですね、先輩のお父さんお母さんからの「大丈夫だよ」という一言があれば、不安は消えます。インターネットでは分からない情報を提供して、「大丈夫」の言葉を繋いでいきたいです。
M子育てラボ「hateao」を設立されて4か月ほど経ちますが、いかがですか?
山メディアから取材を受けることもあり、子育てを考える団体があることが少しずつ周知されてきたため、順調に進んでいます。
M僕、乗り遅れてしまいましたね(苦笑)
山まだどこにも発表していないのですが、近いうちに学童保育を始めようと思っています。
M「すきかちっ」で初公表ですか! 嬉しいです!! 学童保育はかなり大きなプロジェクトではないですか?
山地域のみなさんも参加できる、子育てサロンを兼ね備えた、他とは少し違う学童保育を秋田市にどーんと作る予定です。
Mそのプロジェクトはすでに進んでいるんでしょうか。
山物件は決まりました! スポンサーとして協力してくださりそうな方にプレゼンをする段階です。
M通常の学童保育とは異なって、地域のみなさんも参加できるということは、子育てを終えた方も参加できるということですか?
山はい。シニアの方も含めて、誰でも使えるサロンです。子育て家庭だけでは、うまく回っていきません。地域の人みんなで子どもを育む環境が必要だと感じています。シニアの方の経験や知識を、今のお母さんたちに伝えることも大切ですし、お母さんたちも、煙たがらずにシニア世代と共存することに意味があると考えています。
M伝えたくてウズウズしている先輩方はたくさんいますからね。
山何かを教えなくても、単に子どもたちとオセロを楽しむシニアの方がいてもいいと思うんです。地域の人みんなが交流できるサロンを実現したいです。
★次回配信★
山田綾子さんの「看護師辞めて、起業した vol.6-#2」は9月3日配信予定です。
お楽しみに!